松江市教育委員会に「松江市の小中学校における『はだしのゲン』
閲覧制限措置についての申入書」を送付しました。
松江市教育委員会が中沢啓治著『はだしのゲン』について、過激な描写が子どもにふさわしくないという理由で、閉架に置き、閲覧及び貸出を制限するように松江市の小中学校に求め、小中学校もそれに従ったということが報道されました。
私たちはこの一連の閲覧制限措置について、子どもたちの学びや育ち、また人権の観点からも大きな問題があると考えます。このため、2013年8月25日付で、松江市教育委員会委員長ならびに教育長宛に、下記のとおり申入書を送付しました。
※申入書PDF版を
要望書・アピール のページに公開しています。
印刷できるファイルをご希望の場合はそちらをご覧ください。
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以下は申入書の写しです
平成25年8月25日
松江市教育委員会委員長 内藤 富夫 様
松江市教育長 清水 伸夫 様
学校図書館問題研究会
代表 飯田 寿美
松江市の小中学校における『はだしのゲン』閲覧制限措置についての申入書
私たち学校図書館問題研究会は、全国の学校図書館に関わる教職員、図書館関係者、学校図書館に関心を持つ市民、研究者など、幅広い会員で構成されている個人加盟の研究団体です。
さて、貴教育委員会が中沢啓治著『はだしのゲン』について、過激な描写が子どもにふさわしくないという理由で、閉架に置き、閲覧及び貸出を制限するように松江市の小中学校に求め、小中学校もそれに従ったということが報道されました。私たちはこの一連の閲覧制限措置について、子どもたちの学びや育ち、また人権の観点からも大きな問題があると考えますので、下記のとおり申し入れいたします。
記
小中学校における中沢啓治著『はだしのゲン』の閉架措置及び閲覧・貸出制限を速やかに撤回してください。
理由
- 私たちは、子どもたちが読書を楽しみ、知的好奇心をもって、自ら課題を発見し、探求し、さまざまな角度から考え、表現する活動を通して、豊かな知識と問題解決能力を身につけてほしいと願っています。さらにこのことは、将来子どもたちが民主主義社会の一員となり、豊かで創造的な生活を送ることにつながっていくと信じています。
こうした思考力・判断力・表現力を育むには、子どもたちが多様な情報や資料に出会うことが欠かせません。学校図書館の使命は、多様で幅広い情報や資料を収集し、整理し、提供することで、子どもたちの知る権利を保障し、子どもたちの豊かな学びや育ちを支えることにあります。
- 子どもたちの知る権利は、多様な情報や資料にいつでも自由にアクセスすることができる環境があって、はじめて十分に保障されます。開架にあるからこそ、子どもたちは本棚を見ているうちにさまざまな本と出会うことができるのです。閉架にあって、閲覧や貸出をするのに先生の許可が必要となると、子どもたちの心理的負担が大きくなり、読むのをためらったり、あきらめたりする子が少なからず出てきます。このような状況では、子どもたちの知る権利を保障しているということはできず、1.で述べたような力を育む教育にも大きな妨げになります。
- 問題があるとされる資料を学校図書館で自由に手にとれなくする措置は、学校図書館は資料の内容によっては自由に読むことを制限する場所だという意識を子どもたちに与え、学校図書館への信頼を減じる結果にもなります。それだけにとどまらず、子どもたちは問題があるとされる思想や表現を目の前にしたときに、自分の頭で考えるのではなく、隠したり、排除したりすることを安易に考えるようになります。
- 学校図書館の資料の選択や除去は、各学校の子どもたちの状況や教育課程をよく理解している学校職員がおこなうことで、子どもたちや教育活動のニーズにあった、より教育的効果の高い蔵書形成とサービスをしていくことができます。しかるに今回は、教育委員会が校長会で強制的な効果を伴うような要請をし、学校内でも十分な議論を経ずに制限措置を実施しています。
子どもたちの教育に関わる問題は、学校内できちんと議論し、さらには子どもたちや保護者、住民もいっしょになって考えていくことが大切です。こうしたプロセスがまさに子どもたちの「生きる力」を育み、地域や学校の教育力を向上することにつながっていきます。
- 『はだしのゲン』は、全国の多くの学校図書館に所蔵され、平和学習の資料として一定の評価を得ており、子どもたちは日常的に読み親しんで、戦争や原爆の悲惨さについて学んでいます。こうしたことからも、この本に含まれる暴力的な描写が過度なものと言うことはできず、今回の措置は過剰な対応だと言わざるをえません。
以上
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