日時;2012年12月16日(日)
会場;千葉市ビジネス支援センター
参加者;30名
学校図書館が教育課程の展開に寄与するためには、学校司書が教育課程を知り資料提供したり学習の援助をしたりすることが欠かせません。
そのためには、教師とのコミュニケーションが必要です。
そこで『協働』についての著書がある東京学芸大学附属世田谷小学校司書吉岡裕子氏をゲストにお招きして、会員高桑弥須子氏と対談していただきました。対談では、協働についてだけでなく、子どもに読む力をつけるための様々な方法についても話が出ました。午前に対談、午後は午前の部を受けての質疑応答を行いました。
ゲスト:吉岡裕子氏東京学芸大学附属世田谷小学校司書として長年勤務。その実践はたくさんの本にまとめられている。また、東京学芸大学・学校図書館運営専門委員会による『
先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース』の運営にも委員として深く関わり数々の実践を発表されている。
【主な著書】
シリーズ学校図書館 協働する学校図書館小学校編-子どもに寄り添う12か月(少年写真新聞社/2010)
鍛えよう!読むチカラ(明治書院/2012)
◇午前の部:対談『教師との協働について考えよう』①高学年になって読めるようにするために【吉岡氏】●1冊は絵本を借りよう 通常貸出冊数は3冊まで。
1年生は文字を覚えた嬉しさもあって難しい本を選ぼうとする子や、図鑑ばかり借りる子どもがいるので「1冊は絵本を借りよう」ということにしている。低学年には特に絵本を読んでほしいと考えている。絵本を選ぶ力は重要である。
(記録者補足;吉岡氏は、保護者会でも話をする機会を持っており、絵本の重要性について語っている)
【参考図書】
絵本の庭へ-児童図書館基本図書目録1(東京子ども図書館/2012)
件名・読み聞かせに適する人数も記載されているよくできたブックリスト。
●子どもや本を介してコミュニケーション
自分も図書の時間等に読み聞かせをするが、担任の先生にも読み聞かせしてほしいと思っているので、時々、本を勧めている。押し付けるのではなく「この本いいですけどねー」という程度にして。
著書『協働する学校図書館』にも書いたが、放課後の先生との会話から協働が生まれることがある。学校図書館での子どもの様子を話すうちに、先生から「説明文が読めないんだよ」という話を聞くこともあり、方策を考える糸口になる。
●高学年には読み継がれてきた本・古典も読んでほしい
高学年になって、長文が読めるようになった子ども達は、東野圭吾や山田悠介の著書を楽しむようになることがある。それだけではなく、読み継がれてきた本や古典も読んでほしいと思う。しかし、いきなり勧めても読んではくれない。
その前段階として3年生・4年生に『おすすめの本10冊チャレンジ』を奨励している。『チャレンジ』なのでやりたい子どもがやる、きっかけ作りである。中には保護者に配布してくれる先生もいる。
5年生の1学期には『岩波少年文庫を読もう』
どうやったら古典の長編を読ませられるか?通常3冊貸出のところ、岩波少年文庫を借りるなら特別に4冊目貸出、1週間の期限を越えてもいい、読み終わったら返せばいいとしている。読み終わったら、『本の紹介カード(岩波少年文庫)』にあらすじとおすすめポイント(キャッチコピー)を書かせ、教室に掲示してもらっている。サトクリフにはまる子、「○○くんが読んだなら、僕も読んでみる」という子、「読んだけど難しかったからもう少し易しいのはないか」と聞いてくる子もいる。3・4年の10冊チャレンジや岩波少年文庫を読む取り組みを行うと、それらの本をたくさん所蔵する必要がありそうだが、『ドリトル先生』のようにシリーズものもあるので、今のところ複本は必要としていない。
この取り組みによって、今まで動かなかった本が動くようになった。『つるばら村』のシリーズは男子も読むようになった。ミス・ビアンカやケストナー、くまのプーさんも借りられている。
【高桑氏】
●絵本の豊かさを味わうためにもたくさんの文章を読んでほしい
小学校のうちに「読む」ことに慣れさせることが大事である。
本校の子ども達も、何かと図書館にやってくる、調べようとする。でも、読めなければ調べられない。子ども達には、「文章を読みなさい」と言っている。2冊貸出なので、1冊は必ず9類(絵本も含む)を入れてと言っている。
絵本の世界が今、とても豊かになっている。マンガが一つのジャンルになっているように、絵本も既に別のジャンルを確立したのではないかと思うほど。知識の絵本、伝記も科学も。
そして、絵本であればどれでも子どもに理解できるかといえばそうではない。 例えば『葉っぱのフレディ』。心を打つ言葉が書いてあってブームになったけれど、あの絵本は、たくさんの本を読み経験を積んだ大人が読んでこそ感動するものだ。『彼の手は語りつぐ』も高学年に読み聞かせるが、その絵本を理解させるために様々な本を紹介する。絵本の豊かさを味わうためにもたくさんの物語を読んでほしいと思う。
●学校図書館に関心のある先生のクラスの子どもは利用率が高い
図書館使用割り当てはあるが、授業時数の関係で高学年の利用は少ない。
今年の読書週間の取り組みは、お楽しみの行事はせず、『この本読んでみよう』だけにした。書名を書いたリストを配布し、読んだら星のシールを貼る。
他の行事もあり、なかなか全校に広めるのは難しかったが、取り組んでくれたクラスもあった。担任の先生が図書館に関心を持っているクラスの子ども達は図書館をよく利用する。
②小学校図書館員の『必読図書』の選定について
『鍛えよう!読むチカラ』(高桑氏も共著 p120~126)に掲載されている『小学校図書館員の必読図書』の選定は、市川市立中央図書館で行った。
選者3人、それぞれの思いで本を選んでいった。この必読図書は、図書館員に薦めるだけでなく、子ども達にも読んでほしい本である。附属世田谷小では、リストアップされている本を高学年に、図書の時間に少しずつ読み聞かせしている。
③吉岡氏の様々な実践から『協働』を考える
●おとなの図書新聞の発行
教職員向けに毎月の職員会議で「おとなの図書新聞」を出している。図書館での実践を載せることで依頼が来ることもある。
●何気ない雑談の中から生まれる協働
雑談の中で、「こんな本が使えますよ」「○○しましょう」と吉岡さんの方からアイディアを出すことが多い。
●展示のサイクルは2週間
他校の学校司書さんと話していたとき「掲示物はずっとそのままにしていると、景色になってしまう。2~3日誰も見ていないときは、すぐに替える。」ということを聞いた。2~3日とはいかないが、2週間で替えるようにしている。ネタ切れになったときは、附属中学校に相談することもある。
●何事も楽しんで実践しよう!
自分の価値観を他人に押し付けるのでなく、楽しみながら仕事しよう!
◇午後の部:質疑応答
午前の終わりに、参加者から質問を書いてもらい、午後回答していきました。
協働についてや選書について、本が選べない児童生徒への対応等、いろいろな質問が出ました。時にはお二人以外に参加者からも意見が出ました。
非正規の学校司書が多く、時間的制限のある中、先生は忙しくてなかなかつかまらない・・そんな中では、あまり苦しく考えず、図書主任や司書教諭とは必要な時だけ連絡を取る、その他の先生方にも学校図書館や本に興味関心のある先生がいるはずだから、その方たちと小さな糸口を見つければよいというお話がありました。中学校についても同じです。中学校は先生が忙しくて無理なら、図書委員や一般の生徒に今学習している内容を聞いて、関連図書を展示して、先生に「やってみました」と声をかけるのも良いようです。
読書について問題を抱えている(と学校司書から見える)児童生徒に対しても、押し付けるのでなく、さりげなく声をかけていくのが大事です。
学校司書が楽しそうにしていれば、それに対して児童生徒も「なんか楽しそう」と反応して少しずつでも広がっていくでしょう。