関西テレビ プロデューサー 様
共同テレビ プロデューサー 様
学校図書館問題研究会 代表 飯田 寿美
ドラマ「みんな昔は子供だった」第3回についての申入書
私たち学校図書館問題研究会は、全国の学校図書館に関わる教職員、図書館関係者、学校図書館に関心を持つ市民、研究者などで作る、個人加盟の研究団体です。学校図書館を通して、子どもたちの教育環境の充実をめざし、日々研鑽を続けています。
さて、2005年1月25日放送のドラマ「みんな昔は子供だった」第3回について、私たちはたいへん大きな問題があると感じ、話し合った結果、申し入れを行うことにいたしました。
<問題の箇所>
小学校の図書室で、女の子の借りようとするあるシリーズのブックカード全部に、父の名前が書かれていることを見て、龍平は、「父親は女の本ばっかり借りる変態だ」とからかわれる。悩む彼に、アイ子先生は、その父親の名前のすぐ前に別れた母親の名前があることを告げる。そして、父親は、初恋の相手であった母親のすべてが知りたかったのだと息子に語る。
「本を読む」という行為は、とてもプライベートなことです。図書館で働く者は、「何を読み、何を借りたか」といった利用者の秘密は、守られねばならない大切なプライバシーであることを肝に銘じて、仕事をしております。このように、他人の過去の読書記録を大勢であげつらうなどということは、あってはならないことです。
同時に、「女の本」などと決めつけて先入観を与え、しかもそれをからかいの対象にしているにもかかわらず、先生は一言もたしなめることがなかったのも、自由な読書環境を作ることに腐心している私たちには、大きな疑問を感じる場面でした。
1953年に新しい教育を担うものとして学校図書館法が成立し、学校図書館は学校の中に必ずなくてはならない施設と規定されました。しかし、そこで働く司書教諭には「当分の間置かないことができる」という附則がついたために、実際にはほとんど発令されませんでした。それが不完全ながらも撤廃されたのはようやく2003年のことです。その間、各自治体ではそれぞれの判断で、さまざまな形の学校図書館事務職員が置かれてきましたが、現在、学校図書館に職員が配置されているのは、非正規職員を含めても、小学校・中学校で3割、高校で8割に過ぎません。
そのため、たいへん残念なことではありますが、このドラマに出てくるような、利用者の履歴が見えてしまう学校図書館も確かに残っています。しかし、本来、学校図書館においても利用者のプライバシーは守られるべきものであり、このように無批判に、人権が侵される場面を描いていいとは思えません。それは、こうした状態を社会が是認することにつながるからです。
「図書館の自由に関する宣言」をご存知でしょうか。(同封しました葉書をご覧ください。)これは、戦時中に軍部の圧力に抗し切れず、図書館が利用者の情報を教え、結果的に戦争に加担してしまったことへの痛烈な自己批判から、1954年に日本図書館協会によって採択されたものです。その後1979年に改定され、今も図書館で働く者の倫理的なバックボーンとなっています。これを拠りどころに、公共図書館でも利用者のプライバシーが守られる貸出方式や連絡方法を工夫するとともに、「図書館の自由」が侵されたときには、その問題点を指摘し、意識の変革を求めてきました。昨年の12月8日にテレビ朝日で放送されたドラマ「相棒」の中で、司書が刑事に利用者の情報を教えてしまう場面があったときも、図書館から申し入れをした結果、テレビ局は謝罪のテロップを流し、ビデオ化もしないと約束しました。
「図書館の自由に関する宣言」の解説に、「すべての図書館に基本的に妥当する」と書かれているとおり、学校図書館関係者にとってもこの宣言は精神的な支柱です。最初の宣言から50年が経った今年、学校図書館問題研究会でももう一度この精神を学びなおそうとしているところです。私たちがこのドラマの場面について、どうしても申し入れをして、ぜひ皆さんに考えてもらいたいと思うのは、これを根拠としています。
これまでにも、例えば、スタジオジブリのアニメ「耳をすませば」や、岩井俊二原作の映画「ラブレター」などで、学校図書館のブックカードに書かれていた名前がストーリーの重要なアイテムになっているものがありました。そのたびに、私たちは注意を喚起する申し入れを行ってきましたが、またしても同じことが繰り返されたことを、とても残念に思っています。
現在、毎日のように個人情報の漏洩が問題になっています。悪用するために個人情報を盗む場合もありますが、自分も含めてすべての人のプライバシーを大切にするという基本を忘れて、きちんと対策をとらなかったために漏洩してしまうことも多いようです。もしも、すべての人が、単に知識としての「プライバシー」ではなく、子どものうちから身をもって「プライバシーが守られる」体験をし、人権感覚を養ってきていたら、起こらなかった事件も多いのではないでしょうか。それは、学校や図書館という場所だけでなく、社会全体が十分に配慮すべきことだと思います。テレビという大きな力を持った媒体の責任は、言うまでもありません。
ただ、学校を舞台としたドラマに、子どもたちの生活の場面として学校図書館が描かれたことは嬉しいことです。きちんとした職員が配置され、学校教育の中でさまざまに活かされている学校図書館は、子どもたちの生活にしっかりと入り込んでいます。学校図書館は、「読書」の場であるだけではありません。生涯学習につながる「生きる力」を身につける場所でもあり、情報教育の拠点でもあるなど、いくつもの大切な顔を持っています。今、私たちはその可能性を、校内の教職員とともに追求しています。また、多くの学校でそうした学校図書館が増えていくように、たくさんの方々と関わりながら努力しています。
今度はぜひ、そうした学校図書館で生き生きと活動する子どもたちが登場するドラマを制作して、貧しい学校図書館しか持たない学校の先生や生徒に、本物の学校図書館を見せてあげてください。そこでは、ブックカードを登場させなくても、もっと素敵な出会いや友情や青春が描けると思います。
以上のことから、学校図書館問題研究会は次のことを申し入れます。
①制作に関わったすべての人たちとともに、この場面の問題点について考え、今後の番組作りに生かしていただきたいこと
②もしも再放送やビデオ化をすることがある場合には、学校図書館では利用者のプライバシーに配慮していることがわかる注意書きを、はっきりとわかる形で挿入していただきたいこと
2005.3.1
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