3 学校図書館を充実させる取組みは進んだか
(1) 学校司書のあり方にかかわる取組み
学校司書が専門職として位置づけられるためには、その「専門性」を明らかにし、より多くの人々と共有することが必要です。資料や資料提供についての知識と技能を有する専門職員が、すべての学校に専任で配置され、多様な資料を収集し、さまざまな方法で知的好奇心を掘り起こし、資料提供を行う。教職員と協働して授業などの教育活動にかかわる。そうした学校図書館のはたらきがあってこそ、子どもたち一人ひとりを大切にした日常的な読書活動や、授業と連携した活動などで学校教育を支えることができます。しかし、学校司書の仕事に対する教職員や社会の理解はまだまだです。学図研が追究してきた学校図書館像や学校司書像を実践によって伝えるとともに、必要とされる資格や養成のあり方についても発信していくことがますます重要になっています。
① 学校司書の資格や養成のあり方、配置状況について
第6期「職員問題を考えるプロジェクトチーム」(以下、人プロ)は、2018年鹿児島大会総会で承認され発足しました。活動内容は、 学校司書の配置状況調査の集約と、学校司書のモデルカリキュラムの独自科目「学校図書館サービス論」のテキスト編集です。メンバーは、座長の田村修さん(神奈川)をはじめ、江藤裕子さん(富山)、坂内夏子さん(埼玉)、篠原由美子さん(長野)、山口真也さん(沖縄)の5名と、特にテキスト編集に携わるために、飯田寿美さん(兵庫)、小熊真奈美さん(福島)、鈴木啓子さん(兵庫)の3名が加わり、8名体制です。2020年度は田村さん、篠原さん、山口さんで編集作業チームをつくり、オンライン会議を活用しながら編集作業を進めました(6/14、6/25、8/9、9/5、12/17、1/7、1/10 計7回)。2021年2月末に『学校司書のための学校図書館サービス論』を樹村房より刊行しました(『学図研ニュース』No.420)。
このテキストはモデルカリキュラムに対応しているのはもちろん、現場の学校司書のスキルアップにも使える内容になっていますので、各支部の学習会などでも活用してください。価格を抑えるため、一刷りでの印税支払いはありません。学図研会員には、2021年5月30日まで1800円(振込手数料・送料無料)の限定販売をしました。今後も、学図研価格を設定して販売します。第6期の任期は2年でしたが、本の出版が伸びたため3年間の活動になりました。この刊行をもって、第6期人プロは解散します。
第5期から引き続き文科省の「学校図書館の現状に関する調査」では見えてこない学校司書配置の現状把握を続けています。2020年度末の時点で、学図研の支部を含めた20自治体の学校図書館に関連する21団体が小中学校の学校図書館について、学校司書配置の実態調査を行っていることを把握しています。しかし2020年度は新規で調査を行う支部がありませんでした。2021年度以降、まだ小中学校の学校司書配置を把握していない支部での検討をお願いします。調査結果や、調査票の書式などはホームページで公開しています。ぜひ各支部で今後の学校司書配置調査で活用していただくとともに、新しい情報などがありましたら、ホームページを通じて事務局にお寄せください。
学校司書のモデルカリキュラムについては、2018年度時点、25大学で開講していることを学図研で把握していましたが、2020年度には34大学に増えているとのことです (1大学は学校名非公表)。人プロでも調べた結果と合わせて、以下の34大学が2021年度学校司書モデルカリキュラムを開講していると思われます。(大学名五十音順)
青山学院大学・亜細亜大学・大阪大谷大学・大阪教育大学・大阪樟蔭女子大学・沖縄国際大学・活水女子大学・関西大学・九州龍谷短期大学・京都女子大学・金城学院大学・神戸松蔭女子学院大学・佐賀女子短期大学・相模女子大学・志學館大学・実践女子大学・十文字学園女子大学・白百合女子大学・信州豊南短期大学・清泉女子大・専修大学・相愛大学・鶴見大学・東京学芸大学・同志社大学・鳥取短期大学・広島文教大学・福岡女子短期大学・藤女子大学・佛教大学・宮城学院女子大学・明治大学・桃山学院大学(講習の形態)・八洲学園大学
学校司書モデルカリキュラムの開講状況は、文科省でも把握ができておらず、調査も難しいですが、今後も学校司書の養成や研修に関する状況についてさらに情報を収集し、学校司書に必要とされる研修内容について研究していかなければなりません。
『学図研ニュース』No.413では「人の問題」を特集し、島根県・鳥取県の学校司書等配置状況について掲載しました。No.423では静岡県の学校司書配置状況等について、日本学校図書館学会静岡県支部の2018年6月の調査結果をもとにした報告が掲載されました。
② 「専門・専任・正規」について
学図研では、学校司書の配置に必要な条件として「専任・専門・正規」という表現を用いてきました。このことについて、岡山大会の総会で「専門・専任・正規」という語順にすべきという修正案が出され、その翌年の鹿児島大会の総会で、今後「専門・専任・正規」の語順とすることが決められました。今後はそれぞれの言葉の中身を議論し発信していくことが課題として残っています。
③ 会計年度任用職員制度について
2020年4月1日に施行された「会計年度任用職員制度」は、年度当初の学校休校の影響や研修会等の自粛もあり、情報交換や実態を把握することが困難でした。ホームページに公開されている2021年度採用職員の募集要項をみても、パートタイムがほとんどです。『学図研ニュース』「非正規のリアル」(No.419)では、会計年度職員制度についても触れられており、現状は改善されていない状況が示されています。学校司書の職そのものが、経験も継続性も必要ない職として位置づけられ専門職として扱われない職になってしまうのではないか、専門性の低い職は正規雇用が必要ではないということに固定化されてしまうのではないか、という懸念は払拭されていません。
東京都立高校では、令和3年度 都立学校図書館専門員(会計年度任用職員)の募集がありました。募集は20名(10校、各校2名)です。都立高校では2011年度から民間委託を始めましたが、2021年度の新規委託は行わず、会計年度任用職員の募集に切り替えました。現在配置されている民間委託の学校が今後どうなるのかはわかっていません。
岡山市では、会計年度任用職員制度の導入により、雇用の継続や、勤務時間、賃金などの将来的な見通しが不確かな状況です。従来嘱託職員で働いてきた学校司書の希望する者は、全員、会計年度任用職員へ移行することで、導入時の雇用の継続は確保できましたが、嘱託職員の時にはなかった、毎年次年度の雇用のための面談が導入されています。さらに3年後には導入時と同様の「公募での選考」が示されています。また、勤務時間の削減の懸念がありされます(従来の嘱託職員制度での週36時間は、移行措置として3年間は確保されていますが、市全体では削減傾向にあります)。この会計年度任用職員制度導入と同時に正規職員数の削減が行われているため、正規職員の退職後に、会計年度任用職員がその補充として配置させられ、過重労働がおきています。こうした、一層不安定な状況であることから、離職する学校司書もいます。学校司書の専門性・重要性を仕事で示しながら、問題を共有し改善を求めていく必要があります。
④ 渉外活動について
2020年9月に「著作権法第31条」改正の動きがあり、文部科学省の荒木正寛(青少年教育室/学校図書館振興室)室長補佐に問い合わせをしてアドバイスをいただきました。新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立たず、それ以外の活動できませんでした。
(2)著作権法第31条にかかわる取り組み
2020年6月、文化庁文化審議会著作権分科会において、新型コロナウイルス流行下の図書館休館を踏まえ、図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)を含む著作権法改定についての検討が始まりました。7月の第1回法制度小委員会では、現行の著作権法第31条の「図書館等」に含まれていない学校図書館の取り扱いについても提案されました。8月27日よりこれらを受けたWTの検討が始まりました。
この検討に対して学図研では、以下の理由から第31条の「図書館等」に学校図書館を含めてもらえるようWTや他団体に対して働きかけを行いました。
・授業には該当しない、児童生徒自身の興味関心による読書や調査も、子どもたちの成長と発達に必要不可欠な活動である。児童生徒の知る自由の保障のためにも、複製物の提供は欠かせない。
・教職員による、授業に該当しない児童生徒の活動を指導することや、教育活動を豊かなものにするためのさまざまな研究に対しても、学校図書館が複製物を提供することができる。
・法改正により送信サービスが可能となれば、休校中あるいはオンラインで、授業に該当しない活動をする児童生徒に対して、必要とされる資料の複製物を提供することができる。
・学校図書館も絶版等で入手困難な資料や貴重な資料を所蔵しており、それらを保存したり、他の図書館等へ提供したりするために複製することができる。
・学校図書館においても、国立国会図書館により自動公衆送信されたデジタル資料を印刷して提供することができるようになる。
・児童生徒や教職員にとって、学校図書館で法律に沿い著作権に配慮した複写サービスが受けられることは、著作権に対する意識の向上や、生涯学習における著作物の倫理的な活用につながる。
2020年9月26日付で、文化庁長官以下WTのメンバーほかに宛て、第31条の「図書館等」に学校図書館を含めるよう、「著作権法第31条における「図書館等」に学校図書館を加えることについて(要望)」を提出しました(『学図研ニュース』No.417)。
次いで10月20日付で、「著作権法第31条における「図書館等」に学校図書館を加えることで対応できる事例について」を関係の方々に提出しました(『学図研ニュース』No.418)。要望書と事例集は、第4回WTに参考資料として配布されました。要望書・事例集の送付先は、文化庁長官/文化審議会著作権分科会長/文化審議会著作権分科会法制度小委員会主査/図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム 全員/文部科学省総合教育政策局地域学習推進課長/文字・活字文化推進機構/全国学校図書館協議会 です。
「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」が12月4日の文化審議会著作権分科会法制度小委員会で報告されたのを受け、この報告に関するパブリックコメントが、12月4日~12月21日の期間で募集されました。学図研は団体として、著作権第31条の「図書館等」に学校図書館をぜひ含めて欲しい旨を送りました。
9月27日に東京学芸大学学校図書館運営専門委員会司書部会、東京都立高等学校学校司書会、学図研東京支部の共催で、Zoomによる緊急学習会「学校図書館と著作権」を開催しました。様々な立場の方からこの問題にかかわる視点が提案されました。
2020年11月13日付で公表されたWTの「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書」では、「とりわけ、小・中・高の学校図書館を法第31条の対象となる「図書館等」に追加することについては、昨今、アクティブラーニングなど従来の授業の枠にとらわれない児童生徒等の主体的な学習が重視されるとともに、オンラインでの教育・指導等が普及する中で、図書館における各種サービスへのニーズも高まっていると考えられるところ、本ワーキングチームの議論においても追加すべきとの意見が大勢であった。これを踏まえ、政府においては、現在、関係団体間で行われている協議の状況をみながら、学校図書館に期待される役割等を十分に勘案の上、早急に適切な対応がなされることを期待する。」(p22)とあります。この報告書は2021年2月3日の第60回文化審議会著作権分科会にも報告されています。この課題は2021年度本格的に検討される予定です。今後の関係団体の協議と、法制度小委員会、政府の動向に注視し、学図研として各方面に働きかけをしていきます。
課題として考えられるのは次の点です。著作権施行令の定めるところ、複製が認められる図書館等には、職員についての要件(司書資格、指定の著作権講習を受けた者など)があります。改正に向けては、この職員の要件の検討も必要になると考えられます。また、著作権施行令の改正がされた場合、今から当事者間の調整に向けて動いていく必要があります。学校図書館における具体的な複写の手続きについては、関係団体や権利者で調整し、公共図書館や大学図書館にあるような複写のガイドラインを作成する必要があるでしょう。
学校図書館が複写の主体になるというのは、図書館にコピー機があるかどうかとは別問題です。今複写が可能か否かの判断ではなく、授業に関係しない児童生徒・教職員の個人的な興味関心や研究、広い意味での学びに対する学校図書館の資料提供の姿勢が問われることになります。
(3) 利用者のプライバシーにかかわる取組み
利用者のプライバシー保護に関しては、ICTの普及や「キャリア・パスポート」の導入に伴って、貸出記録の取り扱いやその二次的利用など、新たな課題が出てきています。また、学校図書館ではプライバシーの問題そのものに対してまだ意識の低さや対応の遅れがあります。学図研では第34回大会の総会で「学校図書館のためのプライバシー・ガイドライン」が承認されました。ガイドラインを参考にしながら、それぞれの図書館でプライバシーポリシーを策定したり、利用者のプライバシーを守るための具体的な対策を講じたりしていくことと、状況の変化に合わせて改訂をしていくことが必要になります。
(4) 関係団体や各地の活動との相互理解・協力
関係団体でも例年開催しているイベント等の中止が相次ぎました。以下に学図研と共催のイベントで開催できたものを紹介します。
2020年12月6日に、兵庫支部とこうべ子ども文庫連絡会が共催で、交流会を行いました。実際に集まっての研修で参加者は22名です。文庫連絡会によるストーリーテリング、学校・公共図書館・子ども文庫でのコロナ禍における取り組みの発表と情報交換が行われました。(『学図研ニュース』No.420)
東京・学校図書館スタンプラリーは、2020年度の学校図書館公開のイベントを中止し、「おすすめ本小冊子」のホームページでの公開と、11月1日の作家講演会(現地とオンライン併用)のみを開催しました。
鳥取支部では、「情報リテラシーの育成について考える」と題し、主催:鳥取短期大学司書課程、共催:学図研鳥取支部のかたちで、2021年3月13日に研究会を開催しました。鳥取看護大学・短期大学付属図書館の会場に12人、オンラインで9人が参加しました。鳥取支部の「調べるためのスキル」についての研究成果をベースとし、鳥取短期大学の卒業生、元小学校司書教諭、現中高一貫校司書教諭がそれぞれの立場・経験から事例発表を行い、それを受けて活発な議論がなされました。
関係団体との協力では、学校図書館を考える全国連絡会の連絡窓口は、渉外担当の鳴川浩子さんが担当しました。世話人会が平日開催のため出席していませんが、メーリングリストの情報を共有しています。
2021年2月15日に図書館友の会全国連絡会が提出した、「公立図書館振興を求める要望書」(文部科学大臣宛)、「地方自治を支える公立図書館の振興を求める要望書」(総務大臣宛)に、賛同団体として登録しました。
2021年3月20日の緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル」について、賛同団体として登録しました。
『最新図書館用語大辞典』(柏書房2004.4)の改定に向けた編集委員募集については、出版動向を見ながら対応します。
本文Ⅰ教育と学校図書館を取りまく状況 1教育をめぐる動き (1)教育に関わる法律の動き 参照
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