2007 年 1 月 22 日に放送された「名探偵コナン」第 461 話「消えた 1 ページ」において、 図書館利用者のプライバシー保護に関して問題があると思われる部分がありましたので、申し入れを行いました。
よみうりテレビ チーフプロデューサー 様
東京ムービー チーフプロデューサー 様
「名探偵コナン」1 月 22 日放送 第 461 話「消えた 1 ページ」についての申入書
私たち学校図書館問題研究会は、学校司書や司書教諭などの学校図書館関係者、公共図書館関 係者、市民、研究者など、学校図書館に関心をもつ幅広い会員で構成されている個人加盟の研究 団体です。一人ひとりが自分の実践を持ち寄り、みんなで検証し合い、理論化していくことで、 学校図書館の発展をめざしています。
さて、2007 年 1 月 22 日に放送された「名探偵コナン」第 461 話「消えた 1 ページ」において、 図書館利用者のプライバシー保護に関して問題があると思われる部分がありましたので、申し入 れを行うことにいたしました。
<問題があると思われるシーン>
読書感想文を書くために、歩美が図書室で選んだ本は最後のページが破られていた。歩美がそ の本をどうしても読みたいと主張するので、破られているページについて話を聞こうと、コナン が本の裏表紙にあった図書カードで、最後に借りた子の所属と名前を確認するところ。
<問題点>
読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、学校図書館も含めて図書館は、 利用者の読書事実などの秘密を守る責務があります。けれども、このシーンでは視聴者に対して、 学校図書館は貸出情報を外部に漏らさないための方策をとっておらず、自分の読書事実が第三者 に容易に知られてしまう恐れがある、という印象を与えるとともに、プライバシー保護に対する 意識を鈍感にしてしまう心配があります。
「図書館の自由に関する宣言」をご存知でしょうか(※手紙には同宣言を同封しています)。これは、図書館が戦時中に軍部の圧力に抗し切れず、利用者の情報を教えるなど、結果的に戦争に加 担してしまったことへの痛烈な自己批判から、1954 年に日本図書館協会によって採択されたもの です。その後 1979 年に改訂され、現在も図書館員の倫理的なバックボーンとなっています。そ の精神に沿って、図書館では利用者のプライバシーを守るために、貸出方式や利用者への連絡方 法を工夫してきました。また、「図書館の自由」が問題になったときには、その問題点を指摘する とともに、「図書館の自由」の精神について理解を求めてきました。2004 年 12 月 8 日にテレビ 朝日で放送されたドラマ「相棒」の中で、司書が刑事に利用者の情報を教えてしまう場面があっ たときも、図書館から申し入れをした結果、テレビ局は謝罪のテロップを流し、ビデオ化をしな いと約束してくれました。
「図書館の自由に関する宣言」の解説に、「すべての図書館に基本的に妥当する」と書かれてい るとおり、学校図書館関係者にとってもこの宣言は精神的な支柱です。最初の宣言採択から 50 年を過ぎた今、学校図書館問題研究会でももう一度この精神を学び直そうとしているところです。
ただ、学校図書館では実務を専任・専門で担当する職員が少なく(現在、学校図書館担当職員 が配置されているのは、非正規職員を含めても、公立小・中学校で約 30%、公立高校で約 75%)、それに加えて利用者プライバシーに対する学校全体の意識も決して高いとは言えません。そのた め、たいへん残念なことではありますが、利用者の貸出記録が残っていて、簡単に見られてしま う学校図書館が少なくないというのが現実です。しかし、本来、学校図書館においても利用者の プライバシーは守られるべきであり、このようにプライバシー権が侵害される場面を無批判に描 いていいとは思えません。なぜなら、それはこうした状態を社会が是認することにつながるから です。私たちが今回のシーンについて申し入れをして、ぜひみなさんに考えていただきたいと思 ったのはこのためです。
これまでにも、例えばスタジオジブリのアニメ「耳をすませば」や、岩井俊二原作の映画「ラ ブレター」、関西テレビのドラマ「みんな昔は子供だった」など、学校図書館の蔵書のブックカー ドに書かれていた名前が、ストーリーの重要なアイテムになっているものがありました。そのた びに、私たちは注意を喚起する申し入れを行ってきましたが、またしても同じことが繰り返され たことを、とても残念に思っています。
現在、毎日のように個人情報やプライバシー情報の漏洩が問題になっています。悪用するため にそうした情報を盗む場合もありますが、自分も含めてすべての人々のプライバシーを大切にす るという基本を忘れて、きちんと対策をとらなかったために漏洩してしまうことも多いようです。 もしも、すべての人が単に知識としての「プライバシー」ではなく、子どものうちから身をもっ て「プライバシーが守られる」体験をし、人権感覚を養ってきていたら、起こらなかった事件も 多いのではないでしょうか。それは、学校や図書館という場所だけでなく、社会全体が十分に配 慮すべきことだと思います。テレビという大きな力を持った媒体の責任は、言うまでもありませ ん。
ただ、学校を舞台とした作品に、子どもたちの生活の場面として学校図書館が描かれたことは 嬉しいことです。きちんとした職員が配置され、学校教育の中でさまざまに活かされている学校 図書館は、子どもたちの生活にしっかりと入り込んでいます。学校図書館は、「読書」の場である だけではありません。生涯学習につながる「生きる力」を身につける場所でもあり、情報教育の 拠点でもあるなど、いくつもの大切な顔を持っています。今、私たちはその可能性を、校内の教 職員とともに追求しています。また、多くの学校でそうした学校図書館が増えていくように、た くさんの方々と関わりながら努力しています。
今度はぜひ、そうした学校図書館で生き生きと活動する子どもたちが登場する作品を制作して、 貧しい学校図書館しか持たない学校の先生や生徒に、本物の学校図書館を見せてあげてください。 そこでは、ブックカードを登場させなくても、もっと素敵な出会いや友情や青春が描けると思い ます。
以上のことから、学校図書館問題研究会は次のことを申し入れます。
① 制作に関わったすべての人たちとともに、この場面の問題点について考え、今後の番組作りに 生かしていただきたいこと
② もしも再放送やビデオ化をすることがある場合には、学校図書館では利用者のプライバシーに 配慮していることがわかる注意書きを、はっきりとわかる形で挿入していただきたいこと
2007 年 3 月 1 日
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