2007年6月10日の朝日新聞「学問のススメ」で学校図書館の記事が掲載されました。記事中の「学校司書」の紹介などに気になる点が散見されたため、より正確な現状をお伝えするために以下の情報提供を行いました。
朝日新聞 編集局教育グループ 御中
学校図書館問題研究会 代表 飯田 寿美
私たち学校図書館問題研究会は、学校司書や司書教諭などの学校図書館関係者・公共図書館 関係者・市民・研究者など、学校図書館に関心をもつ会員が集う個人加盟の研究団体です。一 人ひとりが学校図書館活動の実践を持ち寄り、みんなで検証し、理論化していくことで学校図書館の発展をめざしています。
2007年6月10日の朝日新聞「学問のススメ」で学校図書館の記事を拝見しました。普段なか なか取り上げられることのない私たちの現場が紹介され、とてもうれしく感じています。しか し、その記事のなかに、気になる点もいくつかありました。そこで「学校図書館の今」につい て、より正確な現状をお伝えし、学校図書館についてまたとりあげる際の参考にしていただけ ればと考え、手紙を差し上げた次第です。
お読みになって不明な点などありましたら、ご連絡いただければと思います。
私たちが気になった点は主に以下の2点です。
1. 「学校司書」という職について
記事の中に「図書の整理や保管を専門にする」学校司書と紹介されていますが、学校司書の 仕事はそれだけではありません。日常のカウンターでの貸出返却、選書やブックトークなどの 読書案内、調べもの相談など、学校図書館のほとんどの活動を行っています。
1997年に学校図書館法が改正され、12学級以上の学校に発令されるようになった司書教諭は、 授業時間の軽減もなく、学校図書館にかかわろうとする熱意のある人でもなかなか学校図書館 活動を作り上げていくことができません。ちょうど翌週6月17日に貴紙に掲載された、山形県鶴岡市朝暘第一小学校図書館の活動にもあるように、すぐれた学校図書館活動は学校司書と司書 教諭をはじめとする教職員の協働から生まれています。
5月12日・21日・29日の「声」欄にも、学校図書館が日常的に利用できるように「学校図書館 に常駐の司書」を求める読者の声が載っています。学校司書がいてこそ、学校図書館の機能が 発揮されることを知った市民の声ではないでしょうか。
2.学校図書館の「使い方」について
「使い方」が広がってきた例として、調べ学習への支援が取り上げられています。しかし、 学校図書館問題研究会では、1988年に「教科との連携」の実践が報告されてから今に到るまで、 授業支援についての実践と研究を積み重ねてきました。専任・専門の職員がいる学校図書館では、調べ学習に対して、さまざまな資料をそろえ、ブックリストを作成するなどの対応をする ことは、今ではごく当たり前の活動となっています。
ただ、そうした専任・専門の職員のいない学校図書館が数多くあるのも事実です。そこでは、 1998年に当時の文部省が、学校図書館の役割を「読書センター」「学習情報センター」と位置づ けたにもかかわらず、「読書センター」の役割さえも果たせていません。司書教諭など学校図書 館に関わる人が増えてきたことで、ようやく学校図書館機能のいくつかが「動き始めた」状況 というのが適切なのだろうと思います。
財政が困難な中でも、子どもたちの未来のために学校図書館に専任・専門の職員を置こうと 努力する自治体と、学校図書館に目が向かない自治体と、どんどん教育環境に格差が生まれて いる状況です。
今回の記事にもありますように、学校図書館は確かに「読書」の場であるだけではありませ ん。生涯学習につながる「生きる力」を身につける場所でもあり、情報教育の拠点でもあるな ど、いくつもの大切な顔を持っています。そして、私たちはその可能性を、1985年に会を結 成して以来、さまざまな立場の人々とともに追求してきました。その研究成果の資料として『学 校図書館のいま・これから 学図研の20年』及び、昨年の研究大会の記録『がくと22号』、そ して本会の出版物である『教育を変える学校図書館の可能性』『ブックトーク再考』をお送り します。ぜひご覧になって、学校図書館についてさらに理解を深めていただければ幸いです。
また、今年の研究大会の案内も同封いたします。申込締切りを過ぎていますが、ご興味があ りましたらご相談ください。 そして、ぜひともまた、学校図書館のことを記事でとりあげていただきたいと思います。私た ちも本物の学校図書館をつくりあげるべく、日々努力して参ります。
末筆となりましたが、皆様の今後いっそうのご活躍をお祈りしております。
2007 年 7 月 23 日
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